Sunday, October 30, 2005

A Bigger Bang / The Rolling Stones

『ア・ビガー・バン』
ザ・ローリング・ストーンズ
(2005年)

 今年9月にリリースされたストーンズ8年ぶりの最新作。アルバム・リリースと時を同じくして、大規模なワールド・ツアーがスタート。本人たちは否定しているが、今度こそ「ラスト・ツアー」かもしれない。



「危機感」が演出したファン感涙の大力作
 この作品のリリース前、チャーリー・ワッツはガンを宣告されたそうだ。
 ミック・ジャガーとキース・リチャーズは、その知らせを聞いて意気投合、アル中でスタジオ入りできなかったロン・ウッドをほっぽらかして、たったふたりでスタジオに入った。このアルバムの楽曲の多くは、そうしてつくられていったという。

 ローリング・ストーンズ。動くことがそのまま経済効果につながってしまう巨大なバンドである。
 巨大であるからこそ、容易には動けない。

 バンド40周年を記念する懐メロ・ツアー「LICKS TOUR」は2003年のコンサート興行成績ナンバー・ワンを記録し、大成功に終わった。まさに経済効果だ。
 だが、これはとりもなおさず、ストーンズが新しい音楽をクリエイトしなくても、成立してしまうバンドであることを示している。

 新作なんか必要ない。そして、今の彼らがどんなに頑張っても、過去の偉大な業績を越えることはできない。
 それでも、彼らは新しい曲をつくらずにはいられなかった。「ローリング・ストーンズ」を再構築せずにはいられなかったのだ。 

 チャーリー・ワッツが死ぬかもしれない=バンドはオシマイかもしれない。

  その危機感が、彼らを動かしたのは疑いようのないことだろう。ここ20年近く反目しあい、微妙な関係を続けてきたソングライター・チームはこの危機感に よって再び結束し、きわめて高い集中力をもって楽曲をクリエイトしていったのである。完成度の高い楽曲の数々が、そのことを如実に物語っている。
 アルバムの2曲目「Let Me Down Slow」を聴いてみればいい。こんなに豊かで美しく、はつらつとしたメロディをミック・ジャガーが歌うのは、何年ぶりのことだろう。涙が出そうになるじゃないか。

 素材のよさをそのまま生かすドン・ウォズのプロデュース・ワークも功を奏している、と一応は言っておこう。チャーリーのドラムの音は、もうちょっとなんとかなったんじゃないか、という気がしないでもないが。

 ダウンホーム・ブルース「Back of My Hand」ではミック・ジャガーがスライド・ギターを弾いている。還暦を過ぎた男がいまだにスキルアップしているのだ。
 これはもしかしたら、計算高いミックが10年後を見据えた結果なのかもしれない。だが、その計算高さも含めて、このみごとな音色に拍手を贈りたい。


必聴度 ★★
名曲度 ★★★★
名演度 ★★★
感涙度 ★★★★★ 
 

Saturday, October 08, 2005

Crosby, Stills & Nash / Crosby, Stills & Nash

『クロスビー・スティルス&ナッシュ』
クロスビー・スティルス&ナッシュ
(1968年)

絶 妙のコーラス・ワークと清廉なアコースティック・サウンドで一世を風靡したユニットのファースト・アルバム。「You Don't Have to Cry」「Lady of the Island」「Helplessly Hoping」「Long Time Gone」。名曲枚挙にいとまなし。未聴の人は損をしてると断言できます。


一度しか咲かなかった美しき夢の花
 クロスビー、スティルス&ナッシュ。メンバーの名前をただ並べただけのユニット名には、むろん、意味がある。彼らは、組織形態の変革を訴えていたのだ。
  バンドには、かならずリーダーができる。リーダーと非リーダーの関係を突き詰めていけば、それはかならず軍隊形式に行き当たる。だが、60年代後半、ラブ &ピースの時代、その形式こそはもっとも忌むべきものだった。新たな組織の形態、もっと言えば新しい人間関係のありようが求められていたのだ。

 3人の才人が、「個」として充実し、それぞれの才能をあますところなく発揮しながら、ひとつの優れたものを構築する。1人より2人、2人より3人。みんなで力を合わせれば、その力は10人分にも100人分にもなる――。

 欠陥を指摘しようとすれば、いくらでも指摘することができるだろう。あきらかな理想論だし、はかない夢想だと言ってもいい。だが、その理想論を素直に信じ、実現しようとしたからこそ、この美しく希有な作品、文字どおり夢のような作品ができあがったのだ。

 ニール・ヤング入りの次作『デジャ・ヴ』、ライヴ盤『4ウェイ・ストリート』、いずれも大傑作である。いつか、ここで紹介することもあるかもしれない。
 だが、彼らは作品を重ねれば重ねるほど、すこしずつ、しかし明らかにこの「夢」から遠ざかっていく。「夢」はこの作品でしか、表現することができなかったのだ。

 新世界への旅立ちを歌った楽曲「木の舟/Wooden Ships」。
 間奏部でスティーヴン・スティルスの素晴らしいギター・プレイが聴ける。だが一カ所、明らかに音をはずしているところがある。気づかないはずがないし、やり直せないはずがない。だが、スティルスは決してこれを録り直そうとはしなかった。
 この時、この瞬間こそが最高だとわかっていたからだ。


必聴度 ★★★★★
名曲度 ★★★★★
名演度 ★★★
感涙度 ★★★★★