Monday, June 26, 2006

Aha Shake Heartbreak / Kings of Leon

『アーハー・シェイク・ハートブレイク』
キングス・オブ・レオン
(2004年)

 アメリカはテネシー州出身の3人兄弟+従兄弟の同族ガレージ・バンドの2作目。メンバーの平均年齢は25歳未満とおそろしく若いが、消すことのできない南部臭と、オルタナティヴを通過したいびつなメロディが独自の個性を主張する。



私、キングス・オブ・レオンの味方です

 今世紀に入ってから主にイギリスを中心にして盛り上がった「ロックンロール・リバイバル」というムーブメントの中から出てきたバンドである。
 ロックンロール・リバイバルのバンドがたいがいそうであるように、彼らも最初にイギリスで人気に火がついた。もっとも、このバンドはストロークスやホワイト・ストライプスみたいに、本国に凱旋できるほど売れていない。そこがきわめて残念なところである。いいバンドなのになあ。

 ギター2本とベース、ドラムで構成されるサウンドは、CCRを彷彿とさせる。激チープではあるのだけれど、ルーツを消化した暖かみのある音。土の匂いがそこはかとなく漂う。「ロックンロール・リバイバル」に分類されるバンドはたくさんあるけれど、こういう音を出すバンドは他にないだろう。
 
 ただし、ルーツ・ロックにガレージ風の味付けをほどこしただけのバンドだと思ったら大間違いだ。こいつらが鳴らしている音は、たしかに新しいのだから。

 その「新しさ」の中心は、なんといっても歌にある。
 このバンド、歌がヘンなのだ。
 メロディ・ラインはそれこそルーツ・ロックふうだったり、ニューウェーヴふうだったりするのだが、こちらの予想を裏切る方向にかならず展開していく。言葉の韻の踏み方も定石どおりじゃない。そして、これがなにより重要なのだが、ボーカリストの歌い方がおかしい。ヘン、なのである。
 たぶん本人は一生懸命歌っているのだろうけれど、力の入れどころを勘違いしてるような、激情をどこかに置き忘れたような、よく言えばほのぼのとした、悪く言えばものすごくマヌケな歌。
 南部訛りまるだしの英語だから、そのせいなのかなとも思ったが、聞き込むうちにそうではない、という結論に至った。このボーカリストはたぶん、(いい意味で)頭がヘンなのだ。一風変わったメロディは考えてつくったもんじゃないし、マヌケ声も天然だ。こういう人なのである。
 一枚目・二枚目ともにアルバムのジャケットにハッキリした写真がなかったから、その歌声から勝手に朴訥とした百姓ヅラを想像していたのだけれど、つい最近おそろしく美形だと知って再度、驚かされた。ルックスに声がぜんぜん合ってねえ。やっぱヘンだよ、こいつ。

 でも、そこがいいのである。

 ロックンロール・リバイバルなんて、その名前からして後ろ向きなムーブメントで、ロックの過去の遺産をなぞっているにすぎない、みたいな意見はよく聞く。要は、縮小再生産だというわけだ。
 当たってるところもあると思うし、てめえら若いんだから人をアッと驚かすような新しいことやってみやがれ、と言いたい気持ちもないではない。
 だが、ロックという音楽は、スタイルよりパーソナリティの方がモノを言う音楽なのだ。十年一日のバンド編成、どこかで聞いたサウンド・スタイルであっても、その人となりがじゅうぶんに個性的であれば、魅力的な表現が生まれるのである。

 美形のくせに訛っていて、田舎くさくて垢抜けない脱力系ボーカル。ヘタクソなガレージ・バンドのくせに、なぜかルーツの血脈を感じさせるバンド・サウンド。この組み合わせはやはり新しいし、こいつらがこの後どのように活動するのかが、とても楽しみだ。一皮むけないと売れないだろうけど、一皮むけると良さがなくなっちゃうような気もする。今後どうすんのかなあ、となぜかやきもきしてしまうのも、このバンドの愛らしさゆえだろう。

 アルバムから1曲を選ぶとするなら、9曲目「Day Old Blues」。牧童が吹く角笛のような、懐かしいメロディ。そのくせ、ありきたりでは絶対になくて、やっぱりどこかヘン。でも、そこが何よりいとおしい。



必聴度 ★★
名曲度 ★★★★
名演度 ★
マヌケ度 ★★★★★


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