Friday, February 24, 2006

Los Lonely Boys / Los Lonely Boys


『ロス・ロンリー・ボーイズ』
ロス・ロンリー・ボーイズ
(2003年)

テキサス出身の3人兄弟バンド。2005年グラミー最優秀新人賞を受賞。アルバム冒頭「Senorita」、出世曲となった「Heaven」など、新人とは思えぬ完成度。兄弟のオヤジはミュージシャンだそうで、英才教育のたまものかもしれない。


「憧れのテキサス」の新人バンド
 テキサスに行ったことがあるわけじゃない。死ぬまでに一度ぐらい行ってみてもいいとは思っているが、今すぐ行きたいとは思わない。 それでも、テキサスというところには、妙な思い入れがあるのである。故郷を追われた人間が故郷を思うような、そんな感傷的な憧れさえある。

 とはいえ、いいイメージばかりでもないのだ。

  テキサスは、かつてメキシコからの独立を求めて戦い、アメリカの州に入れてもらうことを欲し、アメリカがウンと言わないのでテキサス共和国という独立国 をおっ建ててしまったという男気あふれる歴史を持つ国である。アイゼンハワー、ジョンソン、そしてブッシュ親子と大統領輩出率もきわめて高い。こういう歴 史を持つ地には、どうしてもある種の選民思想が芽生えてくる。聞くところによれば、テキサス人はテキサスこそがアメリカの中心と信じて疑うことがないとい う。さもありなん。

 またテキサスは、あの映画史に残る傑作ホラームービー『悪魔のいけにえ』の 舞台となった場所でもある。あの動機もなんにもない狂気の電ノコ殺人が、リアリティをもって演出できてしまう土地柄なのだ。事実、あの映画はテキサスに実 際に起こった電ノコ殺人を脚色した作品なのである。 家と家の距離が馬鹿みたいに離れていてなんにもないからこそ、地縁血縁だけで濃厚なファミリーが形成 され、そこに狂気が吹きだまる。その狂気だって、突き詰めれば「よそ者は人間ではない。だから狩りをして楽しんだり、捕って喰ったりしてもいい」という選 民意識の素直な発露なのだ。「テキサスこそアメリカの中心」という発想と、根はまったく同じなのである。

 ああ、でもテキサスには憧れがある。

 その要因のもっとも大きなものは、テキサス出身のミュージシャンが奏でる音楽である。彼らの野太い音が、私のツボを常に刺激してくれるのだ。
 そこには、だだっぴろい大地の上でしかはぐくまれない、雄大さがある。男くささ、と言い換えてもいい。
 フレディ・キング、ゲイトマウス・ブラウン、アルバート・コリンズといった、いかすブルースマンたち。
 ロック系でも、スティーヴン・スティルス、ジョニー・ウィンター、そしてZZトップと好きなアーティストは枚挙にいとまがない。彼らの音楽には、たしかに「テキサス的なるもの」が流れていて、私の心の琴線を大いにふるわせるのである。 おお、我が心のテキサス!

 ロス・ロンリー・ボーイズは、そんなテキサスから現れた新人アーティストである。
  新人、とはいっても、ファースト・アルバムのリリースは2003年だ。そこからじわじわと知名度をあげた彼らは、2年かけてアルバムをビルボードの上位に 送り込み、2005年、グラミーの最優秀新人賞を受賞した。これで人気も一気にワールドワイドになって、日本盤もグラミー受賞後に、ようやくリリースされ てい る。
 彼らのなにがいいって、とにかく曲がいいのである。おセンチなバラードはちょっとハナにつくけど、アップテンポのナンバーでのノリの よさ、メロディ のみごとさは一級品だ。 スペイン語をあえて入れて、メキシカン・ルーツを強調したのも成功の要因だろう。ヒップホップに支配されている現代アメリカ の音楽シーンは、ちょっとしたマリノリティ・ブームなのだ。このブームが彼 らにとって、追い風となった。
 バンドが三人兄弟だというのもいい。聞くところによれば、こいつらのオヤジは地元テキサスではそこそこ知られた ミュージシャンだという。オヤジに基礎をみっちり叩きこまれたのだろう、演奏技術の高さは相当なものがある。ライヴもかなりイケるにちがいない。
  そして、ギターの素晴らしさ。こういう男くさいギターを弾くギタリストが出てきたのって、本当に久しぶりじゃないか。テキサス出身の面目躍如というべき か、それとも、元祖マイノリティ代表・サンタナの影響というべきか。男くさい泣きのギターが、情緒を刺激する。私が最初にこいつらを意識したのは、こ のギターの音色だった。そう、そこにはあの「テキサス的なるもの」が流れている!

 リーゼントのベーシスト(こいつが歌うことが多 い)が、私はいい男でございとカメラ目線でキメたがるのは少々閉口だが、今後がすごく楽しみなバンドである。ここまで完成度の高いファースト・アルバムを つくって、それが評価されてしまうと、プレッシャーも相当あることだろう。
 だが、あえて言いたい。日和るんじゃねえぞ、と。
 今なら、安直なバラード路線に逃げることもできる。だが、それはいずれバンドのクビを絞めることになるはずだ。こいつらが進むべきは、骨太のテキサン・ロックである。


必聴度 ★★
名曲度 ★★★★
名演度 ★★★★
期待度 ★★★★  

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